◆出題編A


「…という事件が、二年前の今日あったんだよ」
ミステリ研究会の会長となった葵は、後輩の安部川貴奈子に事件の概要を話した。場所は2年前に“和寂”として使ったのと同じ教室。去年からは後輩も入部し、秀人の手を借りずともきっちり準備が出来るようになったため、今年は綺麗に片付いた教室で後輩と二人、ゆっくり話す余裕も出来ている。
「いや部長、あったんだよって言われましても。その事件、犯人は誰だったんですか?」
ぴし、と平手で虚空を叩き、突っ込みを入れるのは安部川貴奈子。今年入部したばかりの一年生だが、葵とは妙に気が合い、よく話をする仲となっている。
「貴奈子ちゃん、私たちはミステリ研。犯人当てクイズとでも思って、推理してみたら良いんじゃない?」
「はあ…だったらまあ、考えてみますけど。さっきの話に、付け加える条件とかありますか?」
横に置いていた鞄から適当なノートと筆記用具を取り出し、貴奈子は葵に話の続きを促した。葵は微笑むと、そうだね、と小さく呟く。
「そうだね…まず、犯人は単独犯だった。それと、光永一正が“高島ざくろ”を持っている事を知っていたのは、当日の朝に学報部の“華笛”にいたメンバーだけ。つまり、犯人はその中にいる」
ふむふむ、と頷きながら貴奈子はノートに情報を書き込んでいく。
「次に、“華笛”に行く為の道は二つだけだった。西階段は1階部分で科学部が作業をしていて、その日は使えなかった。東階段は自由に使えたけれど、“華笛”はその対角線上だから、“ミステリ研“和寂”の前→男子更衣室前”のルートAを通るか、“ミステリ研“和寂”の横→女子更衣室前”のルートBを通るしかなかった。窓の外を壁伝いに通るのは無理だったから、犯人は絶対にどちらかのルートを通らなければ、“華笛”には行けなかった」
「けど部長、確か更衣室前とか廊下とか、基本的に誰かが居たみたいに言ってましたよね?それだったら、学報部の“華笛”に行った人間を見たって証言があるんじゃないですか?」
「誰一人、廊下にいた人間は通り過ぎる人を見ていなかった」
「え?」
呆ける貴奈子を満足げに見ながら、葵はゆっくり語り出した。
「つまりは簡単なアリバイの問題、という事になるかな。二年も前の事だから細部まで完全に正確とは言えないけれど、だいたい、こんな証言だった…」


問題編B

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