序章

星と月しか空には見えない、そんな綺麗な夜だった。

二つの影が、走る。
その影は互いに激突し合いながら、寂れた路地裏を移動していた。
『――――――!』
とても文字では表現できない奇怪な叫びを一方の影が上げ、我武者羅に突進する。しかし、もう一方の影はそれを紙一重の見切りで回避すると、左腕に当たる部位を相手に向かって鋭く突き出した。
刹那、その手首から、長さ約75センチほどの突起状の物体が上下に飛び出す。恐らくは前腕部に畳んで収納していたそれを一瞬で展開したのだろう。
その影はバックステップで多少距離を離すと、少年の声で小さく呟いた。
『Refine.(精製。)』
そして右掌を上に向ける。そこには光り輝く矢が生まれていた。
『Cosmic Catastrophe!(コズミック・カタストロフィ!)』
少女の声が、少年の声と重なる。影は手首の突起を弓とし、矢を放つ。
矢は一直線にもう一方の影を目指して空間を裂き、そしてその影を貫いた。
それを見届け、影は高らかに男女の声を重ねて宣言する。
『Sublimation!(昇華!)』
刹那、突き刺さった矢から閃光が発せられる。眩いばかりのその輝きは、夜空を鋭く貫き、あたかも天に聳え立つバベルの塔の模倣であるかの様だった。

星と月しか空には見えない、そんな綺麗な夜だった。

第一話

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