◆出題編B


「…事件にかかわった人物の証言は以上。さて、貴奈子ちゃんはどう推理するのかな?」
葵は両手の指をからめると、両腕をぐいっと上に伸ばした。ぽきぽきと骨を鳴らしながら背伸びもし、それからにんまりとチェシャ猫じみた意地悪な笑みを浮かべて貴奈子を見る。
「あ、一応言っとくけど、私は犯人ではありません。そもそもレアカードがあるって知らなかったし、犯人が探偵ってのはアンフェアすぎるしね。それと、動機は『ちょっと隠して困らせてみた』だけで、光永さんが憎かったとか、盗んでお金に変えようと思ったとか、そういうのじゃない。動機は誰にでもあった、と思って欲しいな」
「はあ。とりあえず、犯行が可能なのはアリバイが無い人物として…アリバイが無いのは、六条司さん、酒木秀人さん、小原ヴェイチェルさん、泉野朝さん。六条さんは合唱練習が終わってから更衣室にいるのが確認されるまでの15分、酒木さんは着替えている間の15分。小原さんは8時半からの30分のアリバイが無くて、泉野さんは“和寂”で部長(葵)が来るまで待ってる15分のアリバイが無い、と」
ノートにタイムテーブルを書き、貴奈子は自分の推理を呟き続ける。
「六条さんはいつの間にか更衣室にいたから怪しいけれど、犯行が可能な時間にはずっと女子更衣室の前で双子の小原さんがいて、誰も来ていないって証言してるから“華笛”にあったカードを盗む事は不可能ですね」
「次に、酒木さんは着替えている時間以外はアリバイがあるし、その着替えの間もほとんど部長達が更衣室を見てて、そこから出て来なかったんですよね?山名さんや小原さんの…レイチェルさんだから、お姉さんの方か…が来た時に少し見ていなかったとしても、そんな短時間でカードを取りに行って戻ってくるのは不可能だし、そのタイミングを狙うっていうのは都合良すぎますね」
「じゃあ次に、小原さんの妹の方、ヴェイチェルさん。アリバイが無いのは8時半以降ずっとだけれど、この時間は実行委員が作業してたからルートBは使用不可、ルートAも45分までは男子更衣室前で、それからは“和寂”前で部長が見張っていたから、この人も犯行は不可能ですね」
「じゃあ最後に、泉野さん…けれど、小原さんの時と同じでルートBは通れないし、ルートAは部長が見張っていたから使えない…」
貴奈子は頭を抱え、自分のノートを何度も見直した。タイムテーブルや各人の証言、それら全ての情報をつき合わせて考え直し…それでも、答えは出なかった。
「部長、本当にこの中に犯人がいるんですか?アリバイがある人は完璧なアリバイだし、アリバイが無い人はどうしても犯行が出来ないじゃないですか!」
悲痛な声をあげる貴奈子の肩に、葵は優しく手を置いた。
「貴奈子ちゃん、君は一つ、思い違いをしている。それに気付けば、簡単なんだけどね?」




†作者の保障するルール†

・全ての登場人物は、犯人を除いて意図的な嘘をついていない。
・本山葵は犯人ではない。もちろん、安部川貴奈子も犯人ではない。
・犯人は単独犯であり、いかなる形でも共犯は存在しない。
・透明人間になる薬や天井を歩く忍術、ワープの魔法など…ありとあらゆる超常現象は、これを認めない。
・もちろん登場人物は全員人間であり、ペットを仕込んでカードを盗ませるなどのインチキは行っていない。


解決編