ボクの名前は不破悠。埋葬機関の一員で、銃の発射と着弾を同時に処理し、なおかつ着弾点を視覚化できる能力GUNSLINGERを持っている。
でも、ボクの話を聞く前に彼の話を聞いてもらおう・・・

時・夏期休暇第一日目 所・朝比奈市立公園

「君かな、亜紀さんとコンタクトしたっていう人外は?」
いきなり声を掛けられた。
「――ああ。いかにも、俺がその人外だが」
「そう、ならさ・・・」
ジャコン。
「死んでくれないかな」
――――――――――――パン。
拳銃の乾いた音。
薬莢の火薬によって撃ち出された、小さな小さな金属片。
ヒトの創った武器の中で、最も汎用性に富む武器・・・銃。
加速度のついた鉛の玉が、俺の左胸にのしかかる。
「あれ、あっけないなあ・・・もう終わり?」
ふざけやがって。この俺が拳銃一発で死んでなるものか。
「バカか、おまえ。この俺が銃、それも携帯性のみを重視した結果威力面で死んでいるデリンジャーでお陀仏?寝言なら寝てから言え」
見たところ、年齢は俺の外見と大差ない様だ。
「名前は・・・なるほど、不破悠か。結構いい名前じゃないか。気に入ったな」
「ヘえ、亜紀さんの言ってた『心が読める』っての、本当だったんだね」
やはりこいつも埋葬機関の人間か・・・
使う武器が銃ということは当然、能力を持っていないか、さもなくば、銃を強化する程度のもんだろう。
ま、どっちにしろ、この俺様の敵じゃあないな。
ここは少し、楽しませていただこうかねぇ。

「デリンジャーで効かないなら・・・・・・」
おいおい。おいおいおいおい。
いきなりサブマシンガンですか、あんた。
とっぴょうしも無えモノもってやがる。正気かよ?
ま、どっちにしろ、この俺様の敵じゃあないな。
・・・・・・さっきも言ったな、このセリフ。ま、いいか。
増援がくる前に片付けてもいいけど、やっぱ、増援もろとも殺ったほうが楽しいよな、絶対。
そういう訳で・・・踊ってもらうぜ、不破悠。
「どこ見てんだよ、寝てんのか?」
ひょいっとかわして見せる。
「ああ、もう!何で当たらないのさ!」
叫ぶ不破悠。
「じゃ、当たってやるよ。さ、ほら、撃って来な。今がチャンスですぜ、ダンナ」
「う・・・五月蝿い!だまれぇ!」
サブマシンガンを一斉掃射。吐き出される無数の弾丸の雨の中、俺は片腕ですべてを防いで見せた。
「おやおや、これだけか?俺には傷一つ付いてないぜ?」
なんつったって、防いだもんな。当然、傷は無い。

「――――なら、防げなくすればいい」
お、来た!待ってたぜ、増援さん♪

『ここ』『では』『防げない』

聞こえてきたのは統一言語。
神代の世、バベルの塔以前。
神が言葉を乱す以前にすべてのものが話した言葉。
万物に通じ、万物に影響する、絶対唯一の言語。
なるほど、確かにそれならば神にも匹敵する我々にも影響できるな。意外と頭も回るんだな、埋葬機関も。ほめて遣わすぞ、愚民ども。



あ、澪ちゃん。
増援、間にあったんだ。ボク一人でも大丈夫なのになぁ。
ま、いいか。助かった事は助かったんだし。ちゃんと銃も当たる様になったしね。
「ったく。殺るならさっさとけり付けろよな、不破悠!そんなにショボイ弾でこの俺を殺せるとでも思ってんのか?」
人外の男が叫ぶ。
「強がりは止めたら?見苦しいよ♪」
「GUNNSLINGER、あれは強がりじゃないわよ」
まったく、澪ちゃんまで。
「ほら、よく見なさいよ。彼はあなたの弾が直撃しても、ほとんどダメージがないのよ?」
う・・・・・・確かに、そうだけどさ・・・
「じゃ、こうすれば良いでしょ、澪ちゃん?」
ボクはサブマシンガンから今の弾倉を放すと、足元において合ったカバンから新しい弾倉を取り出した。今度のヤツはダムダム弾だし、いくらかはマシでしょ?
「GUNNSLINGER!」
え?うわっ!?
何時の間にか近寄ってきていた敵は、これまた何時の間にか持っていたナイフで襲ってきていた。

『ここ』『では』『刃は』『斬れない』
ふう、助かった〜。確かにボクに当たったはずのナイフは、まったく切れずに横にそれた。
「ありがと、澪ちゃん♪」
「はい、残念だな不破悠。これが残念賞だ」
ざくりという、肉の断たれる鈍い音。
――――――え?
何で?今、刃物は切れないはずでしょ?なら、何でボクのおなかにはナイフが刺さってるの?
「そりゃ、そうだろ。だって俺、『刺した』んだから」
冷酷に言い放つ彼。痛みは一瞬で全身に駆け巡り、いまや体中が警告を発している。
『このままでは、死ぬ』と。
嫌だよ、助けて!ボクはまだ死にたくない!
「澪、だっけ?お前、急いで帰って上司に言っとけ。俺を殺したいなら、こんなバカじゃなくて、もっとましなの連れて来い、ってな。お前は見逃してやるからさ」
お前は?つまり、澪ちゃんは見逃す?
逆にいえば、ボクは見逃してくれない・・・殺すの?
「殺しはしない」
なら、どうするの?ボクはどうされるって言うの?
「簡単だ。――――『喰う』んだよ」
喰・・・・・・う?
「喰う、ってのは最も原始的な略奪行為だ。つまり・・・・・・チープな言い方をするなら、お前は、俺の中で永遠に生き続けるんだ」
ははは、と軽く笑って彼は、ボクの肩口に口付けした。
――――引き千切られる、ボクの身体。
激痛、出血。
バリバリと、骨の砕ける音。
ブチブチと、肉の裂ける音。
そして――――――嚥下した、ごくりと喉を鳴らす音。

居なくなった澪ちゃん。
ただ一人残される、ボク。
その後、ボクは生きたまま解体されていった。

   直感論理/了

違和感に満ちた世界。
夜色の空を湛えた心の帳。
寂しさゆえ、人はぬくもりを求めるのか。

それとも―――
忘れられないぬくもりが、
寂しさを生むのだろうか。

繰り返す過ち。
それが、日常とイコールで繋がれるという
現実。

幾億のすれ違いが、
たった一つの優しさを奪う。

求めたのは、安らぎに満ちた明日ではなく。

自分だけが、描ける明日を。

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