第四章:2 『4−4=?(2)』
1999/7/1
赤マントの視点から見えるモノ

さて、と。
俺は振り返ると、妹に尋ねた。
「魔夜。お前、何のつもりだ?」
…自分でも驚くほど、冷たく低い声が出た。
「さて、何の事でしょうか、兄さん?」
しかし、魔夜は惚けた様子で首をかしげ、嘲笑う様に俺を見る。俺は無言で眼下…火狩アイと菅原樹がざくろに駆け寄っている…を顎で示した。
「お前の差し金だろ、魔夜。あれだとざくろは生き延びるぞ?」
「……そう、ですね。たかだか四階から飛び降りた程度ですし、頚骨や頭蓋、脳にも損傷は少ないようです。田中さんの場合は頭蓋が陥没するやら脳漿が飛び散るやら、もっと酷い状態でしたけど」
俺は魔夜に向き直り、懐から短剣を取り出す。鋭く研ぎ澄まされたそれは月の光を反射して、猛禽類の瞳の様に、肉食獣の牙の様に、妖しくも燦々たる輝きを放つ。
「昼飯の時だな。情が移ったか?それとも…心の底から、ざくろが憎いのか?」
俺はこれでも、妹の事を少しは知っているつもりだ。こいつが生まれてからずっと一緒に生活してきたし、こいつの世話は俺がしてきた様なものだ。何度も面倒をかけ、何度も面倒を見てやった。そう、血を分けた兄妹だからこそ。
俺はこいつが、ざくろが自殺する事をあの二人に伝えた事を許せない。
「答えろ、魔夜。返答次第では、俺はお前を…」
「殺し、ますか?」
にやり、と魔夜は笑う。凄惨な、絶対者の瞳で。
「ああ、そうなるだろうな。だから答えろ、魔夜。情が移ったのか、それとも…ざくろを憎むほどに、俺のやり方が気に喰わないのか」
答えろ、魔夜。お前も俺と同じで、親父の血を引いた存在なのならば。ただし、お前は親父寄りでも、俺はお袋寄りだ。それに、俺はざくろと契約した。契約完遂までは、契約者の身を守るのが道理だろう。
「そうですね、兄さん。私は、山田さんが大嫌いです。甘くて、ずるくて、弱くて、鈍くて、自分の主観が世界の全てだなんて、世の中を嘗めきった考えで」
だから、私は彼女が嫌いです。妹はそう言いきって俺を見た。
ならば、俺はお前が嫌いだよ。俺はそう言いきって妹を見た。
「あいつの事は一旦火狩アイ達に任せて、魔夜、俺はお前を―――殺す」
エエ・ヤ・ヤァ・ヤァ・ヤハアアア――エ・ヤヤヤアアアア……ング・アアアアア……ング・アアア……フ・ユウ……フ・ユウ……よぐ・そとーす。
顕現せよ。門にして鍵なる、外なる神よ。顕現せよ。一にして全、全にして一なる神よ。顕現せよ。俺の―――親父。偽物の神。
刹那、俺の短剣に玉虫色の光が集う。邪神の光だ。
刹那、妹の周囲に玉虫色の光が集う。邪神の光だ。

「創めようぜ、魔夜…いや、ないあるらとほてっぷ!」

そして、世界は邪神の哄笑に包まれる。

続劇 > 『4−4=?(3)』


今回のBGM ドビュッシー作曲『月の光』
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