第四章:4 『4−4=?(4)』
1999/7/1
赤マントの視点から見えるモノ

妹の首筋目掛けて繰り出す刃に幾星霜。
妹の繰り出す刃を回避するのに幾星霜。
刹那を引き伸ばし、永遠を圧壊させ。
終局を贈与し存在を否定し。
今この瞬間、邪メギドと言う存在は、邪魔夜を屠る為に存在する。食い千切り食い荒らし食い殺し喰い尽す。ないあるらとほてっぷ。千の貌持つ者、黒いファラオ、ナイ神父。俺の妹にして最高の邪神の眷属。俺はお前を否定する。そう、お前が全力でこの世界という可能性を否定しにかかる様に、な。

『はは、はははははははははは!!!!!』

何が可笑しい、ないあるらとほてっぷ。俺は何時でも本気だぞ、少なくともお前と殺しあう瞬間は。もしこれ以上俺を熱くさせる物が在るなら、それはせいぜい恋くらいのものだろう。俺に恋したり、俺が恋したりする相手がいるとは思えんが、な。
「いやいや、君はやはり素晴らしいよ邪メギド。最高だ。最高の逸材だ」
妹は…いや、妹の姿を盗んだ、ないあるらとほてっぷは笑う。俺を見て、窮極の高みから、嘲う。
「最高の逸材を求めて千の永劫。最高の舞台を求めて千の永劫。最高の可能性を求めて千の永劫。そしてこの瞬間、彼女が覚醒するまで永劫を積み重ねた!見たまえ、邪メギド。見て、兄さん。見よ、よぐ・そとーすの息子!これが、この世界の終局だ!」
まさか。
まさか。
まさか。
俺の視線はないあるらとほてっぷの背後、屋上への出入り口に注がれた。

「うるさい、邪。あんた、そのぺらぺら喋る口を閉じなさい。自分で閉じられないなら、この私が閉じさせるよ?」

「いやはや、在り難いよ邪メギド。彼女をこうもあっさり覚醒させてくれるなんてね」
ないあるらとほてっぷが哄笑する。俺の愚鈍さを嘲う。
火狩アイ。今代唯一の、可能性を選択できる者。流されるしかない時間を、唯一改変できる少女。つまり、俺達の切り札にして急所。ないあるらとほてっぷの狙うべき獲物。
「うるさい。黙らなければ黙らせる、そう言った筈だけど?」
そう言い放つと、火狩アイは懐から短剣を取り出した。ないあるらとほてっぷが俺から盗み、火狩に与えたあの短剣を。
「ねぇ、赤マント。あんたの能力は物語を具現化すること、特に都市伝説に対しての効果が高い、って本当?お昼にそこのうるさい邪から聞いたんだけど」
「…ああ」
隠し立てしても仕方がない。ここまで覚醒したんだ、ないあるらとほてっぷが殺すならそれでよし、俺は全力で護るだけだ。田中加奈子、山田ざくろ、少しばかり寄り道しすぎたが、俺の最終目的は火狩アイの守護なんだから。
「そう。で、あんたはその能力を自分自身に作用させ、赤マント…願望機として動いてるわけよね?」
火狩アイの問いに、俺は無言で頷く。火狩アイは満足そうに頷くと、短剣を逆手に構えた。

「あは。結構怖いもんね。これ」

乾いた笑いが、鮮血に染まった。火狩アイは自らの口に短剣を突っ込むと、左右に大きく切り裂いた。
「な、何故だ!?知らないぞ、私はこのような可能性など知らない!」
ないあるらとほてっぷが叫ぶ。火狩アイは血まみれの顔で俺に微笑む。俺は。俺は。ああ、出来る事なんてたかが知れている。俺はただ、火狩アイの意を汲んだ。

空想具現化。マーブル・ファンタズム。現実を捻じ曲げろ。空想を、妄想を、この世のそれと置換せよ。世界の可能性は一つではない。俺が俺ではない世界。今日が今日ではない世界。同様に、
火狩アイが火狩アイでない世界。

「……はぁぁぁぁぁぁ……」
火狩アイ――だったもの――は息をつく。
大きく裂けた口。そこからはもう、血は流れない。何故なら…
「ようこそ火狩アイ、怪異の世界へ。赤マントが、誠意を込めて口裂け女をご案内しよう」
火狩は、少しだけ悲しそうな目で俺を見た。

続劇 >  『4−4=?(5)』


今回のBGM 無し
←『4−4=?(3)』

戻る